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三百字小説募集 三百字小説とは 応募規定 川又千秋


●三百字小説募集
〈三百字小説〉 と称してはいるが、このスタイル、内容を、いわゆるフィクションに限っているわけではない。
単行本で示した夢日記や、ある種の実話…世間や時代に対する感想や批判、目撃談、レポート…などなど、文字数が三百字以内であれば、何を書くかは完全に自由。

その上で、“たかが”を“されど”に翻す意欲的な実験、新型式作品のご応募をお待ちする。

●三百字小説とは
【三百字小説ガイド】   by 川又千秋

 三百字で小説が書けるなんて!

 新潮文庫『極短小説』に出会うまで、思ってもいなかった。『極短小説』は、 米国で“フィフティファイブ・フィクション(五十五語小説)”として公募された超短編の傑作選。その収録作を、訳者の浅倉久志氏は、原稿用紙の半ペラ一枚以内で日本語に移してみせた。つまりは「二百字小説」である。

 この課題に刺激された筆者は、仲間にも呼びかけ、二百文字の創作に挑戦。し かし、実を言うと、日本語の二百字は思いのほか窮屈で、仕上がりが、どうして も小咄風になってしまう。

 そこで、二百五十、三百、三百五十、四百……と、レギュレーションを少しず つ変えて試してみた結果、落ち着いたのが三百文字。このサイズだと、アイデア をきちんとこなしながら、小説的な描写にも、ある程度、文字数を割ける。ならば、四百や五百でも良さそうに思われるだろうが、そこまで増やすと、“極短小 説”の魅力である“一息”の読切リズムが崩れてしまう。

 ということで、固まった〈三百字小説〉の基本ルールをご理解いただくため、まずは作例をご覧頂きたい。


『犠牲者』

「もしもし。オレだよ、オレ」「孫の伸介かい?」「ん?あ、そうそう!実は、 おばあちゃん、大変なことに……」「交通事故でも起こしたのかい」「そ、そう なんだ。相手がヤクザで三百万円払わないと指を詰めるって脅されてる。お願い! すぐ銀行に振り込んで」「目が不自由で外出できないことは知ってるだろ。お金 なら、いくらでもあるから、取りにおいで」「でも、オレ、監禁されてて動けな いんだ。そこの住所も、うろ覚えだし」「だったら使いを寄こせばいい。番地を 教えるから。世田谷区……」「分かった!お金、ちゃんと用意しといて」「いい とも、待ってるよ」ニタリ。人骨が転がる薄暗い室内で黄ばんだ牙を剥き、鬼婆 は包丁を研ぎはじめた。


 本文は、きっかり三百文字。原稿用紙の升目に移せば、二十文字×十五行に収まる。これに改行を加え、ブランクを挿入するなど、文章の体裁を整えて完成させたのが、以下の作品である。


『犠牲者』

「もしもし。オレだよ、オレ」
「孫の伸介かい?」
「ん? あ、そうそう! 実は、おばあちゃん、大変なことに……」
「交通事故でも起こしたのかい」
「そ、そうなんだ。相手がヤクザで三百万円払わないと指を詰めるって脅されてる。お願い! すぐ銀行に振り込んで」
「目が不自由で外出できないことは知ってるだろ。お金なら、いくらでもあるから、取りにおいで」
「でも、オレ、監禁されてて動けないんだ。そこの住所も、うろ覚えだし」
「だったら使いを寄こせばいい。番地を教えるから。世田谷区……」
「分かった! お金、ちゃんと用意しといて」
「いいとも、待ってるよ」
ニタリ。人骨が転がる薄暗い室内で黄ばんだ牙を剥き、鬼婆は包丁を研ぎはじめた。


 これが〈三百字小説〉の基本作法。タイトル、ブランク、ルビなどは文字数に加えず、改行後の行数は自由。また、作例は三百文字をフルに使っているが、制限以内なら、いくら短くても構わない。
 ともあれ、この様式……実際に自分で書いてみると、短いなりに自在度が高く、なにより非常に楽しい。

 アイデアを捻る楽しみはもちろん、文章を削り込み、升目を意識しながら推敲を重ねる楽しみが存分に味わえる。

 ということで、次なるパートに筆者作の十二本を陳列してみた。わずか三百文字で、いったい、どんな作品が可能か? ストレートなアイデア・ストーリイに、夢日記や、ある種(?)の実話などを織り交ぜ、切り口のバリエーションを示してみたつもりである。お楽しみいただきたい。



川又千秋の三百字小説コレクション
『にわか雨』

 お使いの帰り、夕立を避けて近くの軒下へ駆け込むと、「ぼうや、中でひと休みなさい」と優しい声がして引き戸が開き、乾いた手拭いを渡された。
 おずおず玄関に腰を下ろすと、茶と団子をふるまわれ、「謙吉さんトコのぼうやだろう。お父さんに変わりないかい」と親しげに話しかけてくる。
 見覚えはないが、美しい女性である。
 やがて雨音が絶えたので、礼を言って外へ出ると、不思議なことに道がまったく濡れていない。
 さっきの土砂降りが夢のようである。
 家へもどって、この話をすると、父親は何も答えずに仏間へ入って、しばらく出てこなかった。
 何日かして、同じ道を通りかかったので女性の家を探したが、どうしても見つけることができなかった。
『あの星を君に』

 高原の夜。満天の星空。
 「なんて、綺麗なんでしょう」
 僕の腕に抱かれ、恋人が溜め息をついた。
 「どんな宝石も、あの美しさにはかなわないわね」
 「お星様が欲しいのかい?」と僕。「どれでも、好きなのを選んでごらん。永遠の愛の証に、ひとつ、プレゼントするよ」
 「素敵!」
 彼女は声を弾ませた。
 「じゃあ、あれがいいわ! あそこの、青く光っている小さな星……」
 「よし! あの星を君に贈る。今夜から、あの星はキミのものだ」
 一週間後、僕のところに一通の請求書が届いた。
 「此度は《猟犬座M51星雲》をお買い上げ頂き、まことに有り難うございました。
つきましては、以下の代金を……」
 そこに記されていたのは、もちろん天文学的金額だった。
『血闘! 巌流島』

 「小次郎、敗れたり」
 三尺一寸の大刀を抜き放った小次郎が、無造作に鞘を投げ捨てたのを見て、武蔵が叫んだ。
 「勝つ身であれば鞘は捨てまい」
 「愚かなり」
 冷笑を浮かべ、小次郎が言い返す。
 「もとより、この刀、鞘へ返すべきにあらず。汝を斬り捨てたる後は、墓標として大地に突き捨てるまで」
 「小癪な。ならば、そのド派手な衣装はなんだ。あの世とやらで閻魔を笑わせ、情けを請うつもりであろう」
 「汝の襤褸こそ哀れなり。一生、風呂に入らぬは、臭気で敵を欺こうという苦肉の策……いや、腐肉の策」
 「戯言を! だいたい、貴様の剣法は燕にしか通用しないヘナチョコ」
 「一刀では足りぬ臆病者が何をほざく」
 罵り合いは、なお果てしなく……。
『スフィンクスの罠』

 「四本足だったり二本足だったり三本足だったりするもの、なーんだ」
 スフィンクスの謎掛けに、知恵者オイディプスは自信満々、こう答えた。
 「それは人間だ。赤ん坊は四つん這い、やがて二本足で立ち、老いると杖をつく。 参ったか」
 「残念、外れです」
 「そんなはずはない。ならば、正解を明かしてみよ」
 「答は運動会」
 「なにッ!?」
 「騎馬戦、徒競走、二人三脚」
 「バカな! その謎は、デルポイの神殿に掲げられている〈汝自身を知れ〉という哲学的警句より発した……」
 「関係ありませーん。これは、ただの頓知問題」
 「ま、待ってくれッ。それじゃあ、話が違う」
 しかし、スフィンクスはオイディプスの抗弁に耳を貸さず、あっさり彼を喰い殺した。
『お久しぶり』

 こんな夢を見た。
 友人宅で開かれたホームパーティの席上、久しぶりに昔の女友達と顔を合わせた。
 「最近、会ってないね」
 「ほんと、何年ぶりかしら」
 懐かしさで話が弾み、杯を重ねるうち、どちらからともなく、二人きりになりたい気分が芽生え、手をつないで階上へ。
 無人の寝室を見つけ、こっそり中へ入って、ベッドに腰を下ろす。さて……ど うしよう。キスには早過ぎる。
 すると、間の悪さを察した彼女が、「飲み物をとってくるわね」と立ち上がり、部屋を出ていった。そこで、思い出した。
 そうだ! 彼女は、もう何年も前に事故で他界していたんだっけ。どうりで、長いこと会えなかったわけだ。
『ハンティング・エリア』

 こんな話を聞いた。
 友人が冬の北海道へ狩猟に行った。危険なヒグマの猟区を避けてエゾシカの猟区へ入ったのだが、どうも背後に気配を感じる。
 そこで引き返してみると、巨大な熊の足跡が自分の足跡を踏んでいる。つまり、尾行されているのだ。
 熊の姿は見えないものの、ヒグマは利口な獣で、追跡に気付かれると、いったん後退りして行方をくらまし、獲物の前方へ回り込んだりもするという。
 恐怖に駆られた友人は、大声で軍歌をがなりながら近くの猟小屋へ逃げ戻り、ストーブにあたっていた地元の猟師に訴えた。
 「鹿の猟区に熊が入り込んでますよッ」
 猟師は、ふーんと鼻の穴からタバコの煙を吹き出し、答えたそうな。
 「熊は立て札読めんからねえ」
『アレ』

「おい、アレ取ってくれ」
 結婚二十八年目。たいていの“アレ”は即座に見当がつく。
 休日の夕食前。風呂上がりの夫は、片手にスポーツ新聞、枝豆をツマミにビールを飲みながら、野球中継を観戦中。
 そんな夫が、今、取って欲しいアレとは?
 しかし、訊き返すのもアレだ。
 「ちょっと待って」
 答えておいて、アレを探す。
 昔は灰皿だったが、禁煙して三年。足のツメは、今朝、切ったばかり。耳掻きなら卓上のペン立てに入っている。ビールも残っているし……。
 「おい、アレ!」
 「はいはい、すぐに」
 だが、分からない。苛立ちが募る。なんなのよ、いったい!?
 包丁を握る指の関節が白くなった。
 「おい!」
 「うるさいわね! アレって、コレのことッ」
『おい、おい!』

 朝食の準備をしていたら、つけっぱなしのテレビから、僕の名前が聞こえてきた。
 驚いて目をやると、僕の顔写真が大写しになっている。え……なんで?
 急いでボリュームを上げたが、その前に画面が切り替わり、アナウンサーは次の話題へ移ってしまった。
 なんだったんだ? 気にしつつも食事を終え、外出すると、通りがかりの人たちが、僕の顔をチラチラ盗み見ては声をひそめ、なにやら、しきりに噂し合っているようである。
 そんな!
 慌てて家へ駆けもどり、テレビにかじりついた。あちこち、チャンネルを変え続るが、それきり、僕を取り上げる番組にぶつからない。
 不安だけが、ますます膨らむ。いったい、どうすりゃいいんだ?
『出生の秘密』

 「赤ちゃんは、どうやって生まれるの?」
 姫の質問に、王は顔をしかめ、王妃を見やった。
 「それはね、姫がもう少し大きくなれば、自然に分かることよ」
 「あたし、もう子供じゃない。神様が運んできたんじゃないことくらい知ってるわ」
 「うむ」
 王が頷き、続けた。
 「いつの間にか、そんな年頃になっていたんだな。よろしい。では、聞きなさい」
 そして、王は語りはじめた。
 二人のなれそめから、熱愛、結婚。
 「わたしたちは深く愛し合っていた。そこで、王妃が産んだ卵に、私が……」
 「つまり、胎生じゃなく卵生なのね」
  姫の尾の先が、神経質に震えた。
 「じゃあ、あたしたちには、人間のような愉しみが許されていないのね」
 失望の余り、人魚姫は泣き崩れた。
『タクシー稼業☆雨夜の客』

 「はい、どうぞ。よろしければドア閉めます。
 ひどい雨で、お足元大変だったでしょ。え? 足は濡れてない。それじゃ、まるで幽霊だ、はは……あれ? そうなんですか?
 ふーん……ちょっと困るんですよねえ。一応、幽霊さんのご乗車はお断りする ことにしてまして。だって、幽霊だけに“おアシ”がない、なんてね。わッ…… 脅かさないで。わたし心臓が弱いんですよ。
 分かりました。お送りしますから……その先を右ですか。でも、霊園は反対側ですよ。
 あ、なるほど。帰るんじゃなくて、これから化けて出るところ……そうですか。
 こんな夜に“うらめしや〜”なんてやられちゃあ、先方も震え上がるでしょうなあ。
 はい、着きました。お足元、気をつけて」
『宇宙親善』

 あなたを信頼できる方と見込んで打ち明けますがね、実は、私、宇宙人なんです。
 この星の数え方で三年ほど前、銀河連盟の仕事で任地へ向かう途中、搭乗していた単座の超光速艇が故障して地球に不時着。
 衝撃で艇はメチャクチャ、破壊を免れた順応装置で地球人に姿を変え、今まで生き延びてきたんですが、脱出の方法が見つからないんです。
 通信機さえ修理できれば救難信号を出せるんですが……その費用が三百万円ほど必要で……いえ、全額とは言いません。
 せめて十万……無理なら三万でも一万でもいいんんです。救助隊が到着した暁には、利子を十割上乗せして返済しますから。どうでしょう? お願いできませんか?
 宇宙親善のために、あなたも一口。
『まいったなあ』

 目を覚ましたら、金曜になっていた。


そこで、作品募集

 いかがであろう? たかが三百字、されど三百字。手の平サイズの小説世界を、お楽しみいただけたろうか。
 ただし、この楽しさは「読む」だけじゃ終わらない。ぜひとも、「書く」楽しみを味わっていただきたい。
応募要領はこちらへ
川又千秋

●応募規定
本文三百字以内の読切作品に限る
複数作品投稿可能
氏名(ペンネーム使用の場合は本名を併記)、年齢、職業、住所、電話番号を明記
応募原稿の返却、選考に関する質問、相談には応じません
メール投稿は、テキスト・ファイルのみ受付
応募先

  1 : 電子メール 300oubo@bungenko.jp

 2 : 郵便での応募の場合
  〒101-0051
  東京都千代田区神田神保町2-20 新協ビル301号室
  有限会社 文源庫「三百字小説」係

●川又千秋(かわまたちあき)
1948年 北海道小樽市生まれ。慶応義塾大学卒。
博報堂に入社、コピーライターをしながらSF同人誌に執筆
1976年 「夢のカメラ」を「奇想天外」に発表。
1979年 79年に作家専業に。
『海神の逆襲』『反在士の鏡』『火星人先史』『ラバウル烈風空戦録』など著書多数
1984年 『幻詩狩り』で日本SF大賞。
『対馬沖ソ連艦に突入せよ』『筑波・核戦略都市を奪回せよ』などの冒険小説もある。

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