池内紀の旅みやげ

池内 紀の旅みやげ⒅ 文晁の板絵──新潟県・浦佐

上越新幹線に「浦佐」という駅がある。その駅近くにあって、「浦佐の毘沙門(びしゃもん)さま」と呼ばれている。正式には普光寺(ふこうじ)といって、真言宗の寺である。道乗坊弁覚という、いかめしい名前の坊さんが室町のころに開いた...

池内 紀の旅みやげ⒄ われらのテナー──山口県下関市

海沿いの国道に小さな標識を見つけた。 「紅葉館(藤原義江記念館)」 フジワラ・ヨシエ? 何やら懐かしい名前である。つづいてオペラ歌手藤原義江を思い出した。まだ日本にオペラが縁遠かった時代に藤原歌劇団をつくり、ひろく世界に...

池内 紀の旅みやげ⒃ モダン役場──長野県駒ケ根市

信州・伊那谷は巨大なV字形をしており、西に木曽山脈(中央アルプス)、東には赤石山脈(南アルプス)がつらなっている。V字の底を流れるのが天竜川だ。「天竜」とはみごとな命名であって、北から南へ、しだいに川幅をひろげながら走る...

池内 紀の旅みやげ⒂ 据置郵便貯金─宮城県白石市

ことの起こりは、神社の裏手で出くわした一つの石である。立派な台座にのった大きな御影石。まん中が表彰状のようなスタイルになっていて、右から左へ七つの漢字が彫りこんであった。 「据置郵便貯金碑」 東北一帯に雪がパラついた朝の...

池内 紀の旅みやげ ⒁ 観慶丸商店ー宮城県石巻市

写真では古びた建物としか見えないだろう。レンガ造りのような三階建て。一階部分にガタがきて、ベニヤ板が張りまわしてある──。 ちがうのだ。去年(二〇一一年)三月十一日までは、とびきりステキな建物だった。昭和初期のモダニズム...

池内 紀の旅みやげ ⒀ 謎の狛犬─埼玉県吉田町(現・秩父市)

神社に行くと狛犬(こまいぬ)がいる。拝殿の前方左右に威儀を正して控えたぐあいで、石の台座にのっており、通常は石づくり。ごくおなじみなので、誰も狛犬などには目もくれない。鈴を鳴らし、柏手を打ち、手を合わせて拝むとそれでおし...

池内 紀の旅みやげ (12) 龍神のすみか──埼玉県秩父市

ふつう御神木(ごしんぼく)とよばれ、神社の境内や裏山にある。「神の木」であって、しめ縄が巻いてあったり、まっ白な御幣(ごへい)がつけてある。神化されるだけあって、とてつもない巨木が多い。幹まわり、枝張りとも群を抜き、崇高...

池内 紀の旅みやげ (11) ギッコンバッタン ──長野県・軽井沢町

自分では「一つめ小町(こまち)」と名づけて、旅先で町を歩くときのルールにしている。表通りから一つ裏手に入ること。そこにきっと「小町娘」が待っている。 表通りは実用一点ばりで、どこもたいてい同じである。歩いてもただ疲れるだ...