三百字小説募集



三百字小説募集 応募規定 川又千秋  入選作を読む

★300文字小説ガイド★
【300文字小説】とは何でしょう?

 「小説」を名乗っていますが、虚構(フィクション)に限らず、内容は自由。作例コーナーに示したように、ある種の実話や夢日記のようなノンフィクション…世間話や日々の生活にまつわる感想、批評…面白目撃談やあるあるレポート…などなど。

 文字数が300以内であれば、何をどのように表現するかは、作者の着想、着眼、アイデア次第です。

 では――
 実作をお見せする前に、[300文字小説]というスタイルが、どのように構想されたかを簡単におさらいしておきます。

 きっかけは2004年、新潮文庫版として訳出された『極短小説』というアンソロジー。『極短小説』は、 米国で“フィフティファイブ・フィクション(五十五語小説)”として公募された超短編の傑作選。その収録作を、訳者の浅倉久志氏は、四百字詰め原稿用紙半分の、@いわゆる「半ペラ(二百字詰め原稿用紙)」一枚以内で日本語に移してみせました。つまりは[200文字小説]です。

 この課題に刺激された筆者は、仲間にも呼びかけ、200文字以内で書き上げる創作に挑戦してみました。しかし、実を言うと、日本語の200文字は思いのほか窮屈で、仕上がりが、どうしても軽い小咄風になってしまいます。

 そこで、文字数を、250…300…350…400…と変更しながら試していった結果、落ち着いたのが300文字。

 このサイズだと、アイデアを文章内で処理しながら、小説的な描写にも、それなりに文字数が使えます。

 ならば、400文字や500文字でも良さそうに思われかもしれませんが、そこまで増やすと、“極短小説”の魅力である一息の読切リズムが崩れてしまいます。

 …などなど、あれこれ試作を経て固まったのが、[300文字小説]の基本ルール。

 これを具体的にご理解いただくため、作例をご覧頂きたいと思います。

【川又千秋の300文字小説作例集】
―――①―――
 『犠牲者』

 「もしもし。オレだよ、オレ」
 「孫の伸介かい?」
 「ん? あ、そうそう! 実は、おばあちゃん、大変なことに…」
 「交通事故でも起こしたのかい」
 「そ、そうなんだ。三百万円払わないと勤め先に乗り込むって脅されてる。お
願い! すぐ銀行に振り込んで」
 「目が不自由で外出できないことは知ってるだろ。お金なら、いくらでもある
から、取りにおいで」
 「でも、オレ、監禁されてて動けないんだ。そこの住所も、うろ覚えだし」
 「だったら使いを寄こせばいい。ここの番地を教えるから」
 「分かった! お金、ちゃんと用意しといて」
 「いいとも、待ってるよ」
 ニタリ。人骨が転がる薄暗い室内で黄ばんだ牙を剥き、鬼婆は包丁を研ぎはじ
めた。
 これが〈三百字小説〉の基本スタイル。タイトル、ブランク、ルビなどは文字数に加えず、行数は自由。また、作例は300文字をほぼフルに使っていますが、制限以内なら、いくら短くても構いません。

 ともあれ、このスタイル…実際に自分で書いてみると、短いなりに自在度が高く、なにより非常に面白いのです。アイデアを捻る時間はもちろん、文章を削り込み、文字数を意識しながら推敲を重ねる楽しみが存分に味わえます。

 ということで、次なるパートに、筆者作のさらなる作例12本を陳列してみました。わずか300文字で、いったい、どんな作品が可能か? お楽しみいただければ??

―――②―――
 『にわか雨』

 お使いの帰り、夕立を避けて近くの軒下へ駆け込むと、「ぼうや、中でひと休みなさい」と優しい声がして引き戸が開き、乾いた手拭いを渡された。
 おずおず玄関に腰を下ろすと、茶と団子をふるまわれ、「謙吉さんトコのぼうやだろう。お父さんに変わりないかい」と親しげに話しかけてくる。
 見覚えはないが、美しい女性である。
 やがて雨音が絶えたので、礼を言って外へ出ると、不思議なことに道がまったく濡れていない。
 さっきの土砂降りが夢のようである。
 家へもどって、この話をすると、父親は何も答えずに仏間へ入って、しばらく出てこなかった。
 何日かして、同じ道を通りかかったので女性の家を探したが、どうしても見つけることができなかった。
 
―――③―――
 『あの星を君に』

 高原の夜。満天の星空。
 「なんて、綺麗なんでしょう」
 僕の腕に抱かれ、恋人が溜め息をついた。
 「どんな宝石も、あの美しさにはかなわないわね」
 「お星様が欲しいのかい?」と僕。「どれでも、好きなのを選んでごらん。永遠の愛の証に、ひとつ、プレゼントするよ」
 「素敵!」
 彼女は声を弾ませた。
 「じゃあ、あれがいいわ! あそこの、青く光っている小さな星…」
 「よし! あの星を君に贈る。今夜から、あの星はキミのものだ」
 一週間後、僕のところに一通の請求書が届いた。
 「この度は《猟犬座M51星雲》をお買い上げ頂き、まことに有り難うございました。つきましては、以下の代金を…」
 そこに記されていたのは、もちろん天文学的金額だった。
 
―――④―――
 『血闘! 巌流島』

 「小次郎、敗れたり」
 三尺一寸の大刀を抜き放った小次郎が、無造作に鞘を投げ捨てたのを見て、武蔵が叫んだ。
 「勝つ身であれば鞘は捨てまい」
 「愚かなり」
 冷笑を浮かべ、小次郎が言い返す。
 「もとより、この刀、鞘へ返すべきにあらず。汝を斬り捨てたる後は、墓標として大地に突き捨てるまで」
 「小癪な。ならば、そのド派手な衣装はなんだ。あの世とやらで閻魔を笑わせ、情けを請うつもりであろう」
 「汝の襤褸こそ哀れなり。一生、風呂に入らぬは、臭気で敵を欺こうという苦肉の策…いや、腐肉の策」
 「戯言を! だいたい、貴様の剣法は燕にしか通用しないヘナチョコ」
 「一刀では足りぬ臆病者が何をほざく」
 罵り合いは、なお果てしなく…。
 
―――⑤―――
 『スフィンクスの罠』

 「四本足だったり二本足だったり三本足だったりするもの、なーんだ」
 スフィンクスの謎掛けに、知恵者オイディプスは自信満々、こう答えた。
 「それは人間だ。赤ん坊は四つん這い、やがて二本足で立ち、老いると杖をつく。参ったか」
 「残念、外れです」
 「そんなはずはない。ならば、正解を明かしてみよ」
 「答は運動会」
 「なにッ!?」
 「騎馬戦、徒競走、二人三脚」
 「バカな! その謎は、デルポイの神殿に掲げられている〈汝自身を知れ〉という哲学的警句より発した…」
 「関係ありませーん。これは、ただの頓知問題」
 「ま、待ってくれッ。それじゃあ、話が違う」
 しかし、スフィンクスはオイディプスの抗弁に耳を貸さず、あっさり彼を喰い殺した。
 
―――⑥―――
 『お久しぶり』

 こんな夢を見た。
 友人宅で開かれたホームパーティの席上、久しぶりに昔の女友達と顔を合わせた。
 「最近、会ってないね」
 「ほんと、何年ぶりかしら」
 懐かしさで話が弾み、杯を重ねるうち、どちらからともなく、二人きりになりたい気分が芽生え、手をつないで階上へ。
 無人の寝室を見つけ、こっそり中へ入って、ベッドに腰を下ろす。さて…どうしよう。キスには早過ぎる。
 すると、間の悪さを察した彼女が、「飲み物をとってくるわね」と立ち上がり、部屋を出ていった。そこで、思い出した。
 そうだ! 彼女は、もう何年も前に事故で他界していたんだっけ。どうりで、長いこと会えなかったわけだ。
 
―――⑦―――
 『ハンティング・エリア』

 こんな話を聞いた。
 友人が冬の北海道へ狩猟に行った。危険なヒグマの猟区を避けてエゾシカの猟区へ入ったのだが、どうも背後に気配を感じる。
 そこで引き返してみると、巨大な熊の足跡が自分の足跡を踏んでいる。つまり、尾行されているのだ。
 熊の姿は見えないものの、ヒグマは利口な獣で、追跡に気付かれると、いったん後退りして行方をくらまし、獲物の前方へ回り込んだりもするという。
 恐怖に駆られた友人は、大声で軍歌をがなりながら近くの猟小屋へ逃げ戻り、ストーブにあたっていた地元の猟師に訴えた。
 「鹿の猟区に熊が入り込んでますよッ」
 猟師は、ふーんと鼻の穴からタバコの煙を吹き出し、答えたそうな。
 「熊は立て札読めんからねえ」
 
―――⑧―――
 『アレ』

 「おい、アレ取ってくれ」
 結婚二十八年目。たいていの“アレ”は即座に見当がつく。
 休日の夕食前。風呂上がりの夫は、片手にスポーツ新聞、枝豆をツマミにビールを飲みながら、野球中継を観戦中。
 そんな夫が、今、取って欲しいアレとは?
 しかし、訊き返すのもアレだ。
 「ちょっと待って」
 答えておいて、アレを探す。
 昔は灰皿だったが、禁煙して三年。足のツメは、今朝、切ったばかり。耳掻きなら卓上のペン立てに入っている。ビールも残っているし…。
 「おい、アレ!」
 「はいはい、すぐに」
 だが、分からない。苛立ちが募る。なんなのよ、いったい!?
 包丁を握る指の関節が白くなった。
 「おい!」
 「うるさいわね! アレって、コレのことッ」
 
―――⑨―――
 『おい、おい!』

 朝食の準備をしていたら、つけっぱなしのテレビから、僕の名前が聞こえてきた。
 驚いて目をやると、僕の顔写真が大写しになっている。え…なんで?
 急いでボリュームを上げたが、その前に画面が切り替わり、アナウンサーは次の話題へ移ってしまった。
 なんだったんだ? 気にしつつも食事を終え、外出すると、通りがかりの人たちが、僕の顔をチラチラ盗み見ては声をひそめ、なにやら、しきりに噂し合っているようである。
 そんな!
 慌てて家へ駆けもどり、テレビにかじりついた。あちこち、チャンネルを変え続るが、それきり、僕を取り上げる番組にぶつからない。
 不安だけが、ますます膨らむ。いったい、どうすりゃいいんだ?
 
―――⑩―――
 『出生の秘密』

 「赤ちゃんは、どうやって生まれるの?」
 姫の質問に、王は顔をしかめ、王妃を見やった。
 「それはね、姫がもう少し大きくなれば自然に分かることよ」
 「あたし、もう子供じゃない。神様が運んできたんじゃないことくらい知ってるわ」
 「うむ」
 王が頷き、続けた。
 「いつの間にか、そんな年頃になっていたんだな。よろしい。では、聞きなさい」
 そして、王は語りはじめた。
 二人のなれそめから、熱愛、結婚。
 「わたしたちは深く愛し合っていた。そこで、王妃が産んだ卵に、私が…」
 「つまり、胎生じゃなく卵生なのね」
  姫の尾の先が、神経質に震えた。
 「じゃあ、あたしたちには、人間のような愉しみが許されていないのね」
 失望の余り、人魚姫は泣き崩れた。
 
―――⑪―――
 『タクシー稼業☆雨夜の客』

 「はい、どうぞ。よろしければドア閉めます。
 ひどい雨で、お足元大変だったでしょ。え? 足は濡れてない。それじゃ、まるで幽霊だ、はは…あれ? そうなんですか?
 ふーん…ちょっと困るんですよねえ。一応、幽霊さんのご乗車はお断りすることにしてまして。だって、幽霊だけに“おアシ”がない、なんてね。わッ… 脅かさないで。わたし心臓が弱いんですよ。
 分かりました。お送りしますから…その先を右ですか。でも、霊園は反対側ですよ。
 あ、なるほど。帰るんじゃなくて、これから化けて出るところ…そうですか。
 こんな夜に“うらめしや~”なんてやられちゃあ、先方も震え上がるでしょうなあ。
 はい、着きました。お足元、気をつけて」
 
―――⑫―――
 『宇宙親善』

 あなたを信頼できる方と見込んで打ち明けますがね、実は、私、宇宙人なんです。
 この星の数え方で三年ほど前、銀河連盟の仕事で任地へ向かう途中、搭乗していた単座の超光速艇が故障して地球に不時着。
 衝撃で艇はメチャクチャ、破壊を免れた順応装置で地球人に姿を変え、今まで生き延びてきたんですが、脱出の方法が見つからないんです。
 通信機さえ修理できれば救難信号を出せるんですが……その費用が三百万円ほど必要で……いえ、全額とは言いません。
 せめて十万…無理なら三万でも一万でも大丈夫です。救助隊が到着した暁には、利子を十割上乗せして返済しますから。どうでしょう? お願いできませんか?
 宇宙親善のために、あなたも一口。
 
―――⑬―――
 『まいったなあ』

 目を覚ましたら、金曜になっていた。


 いかがです?
 たかが300文字、されど300文字。一息サイズの小説世界を、お楽しみいただけたでしょうか。
 ただし、この楽しさは「読む」だけでは終わりません。ぜひとも、「書く」楽しみも味わっていただきたいのです。
 そこで――


【応募要領  応募規定】

本文300文字以内の読切作品に限る
複数作品投稿可能
タイトル、ブランク、ルビなどは文字数に加えず、行数は自由。
制限以内なら、いくら短くても構いません。
氏名(ペンネーム使用の場合は本名を併記)、年齢、職業、住所、電話番号を明記
応募原稿の返却、選考に関する質問、相談には応じません
メール投稿は、テキスト、テキストファイルのみ受付
締め切り 毎月20日到着まで
掲載日 毎月末日(予定)
掲載場所 web遊歩人
応募先

1 : 電子メール 300oubo@bungenko.jp
2 : 郵便での応募の場合
  〒101-0051
   東京都千代田区神田神保町1丁目44 駿河台ビル 401
   デジタル・エスタンプ株式会社「三百字小説」係


●川又千秋(かわまたちあき)

1948年 北海道小樽市生まれ。慶応義塾大学卒。
博報堂に入社、コピーライターをしながらSF同人誌に執筆
1976年 「夢のカメラ」を「奇想天外」に発表。
1979年 79年に作家専業に。
『海神の逆襲』『反在士の鏡』『火星人先史』『ラバウル烈風空戦録』など著書多数
1984年 『幻詩狩り』で日本SF大賞。
『対馬沖ソ連艦に突入せよ』『筑波・核戦略都市を奪回せよ』などの冒険小説もある。


入選作の掲載発表は下記から

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