季語道楽⑿ 厳しい冬を迎える前の心にしみる華やぎ 坂崎重盛
昨日、今日、テレビでは紅葉の話題が報じられている。
関東では、なんといっても日光。まさに錦繍、にしきの織物だ。京都では嵐山・渡月橋あたり。かつての東京では、品川・海晏寺、滝野川、あるいは芝・紅葉山。
ぼく自身の体験では、奥多摩・日原鍾乳洞周辺の鮮烈な紅葉ぶりが、しばらくのあいだ、まぶたを閉じても網膜に焼き付いていました。
今回は秋の季語のうち、動植物をチェックしてみましょう。
そうそう、ここしばらく、ジャケットの衿に、鶉(うずら)のバッジをつけていました。鶉は秋の季語ですからね。でも気付いてくれる句友はいませんでした。これも日頃のこちらのイヤミな態度への反応でしょうか。無視されても仕方がない。
ま、そんなことはどうでもいい、本題に入りましょう。
「猪・鹿・蝶」のうち、蝶をのぞく、「猪」、「鹿」は秋の季語。「蛇穴に入る」、同じく、蛇に関わる「穴まどひ」も。
「百舌鳥(もず)」が秋を代表する鳥であることは、よく知られるところ。♬「百舌鳥が枯れ木で鳴いている……」という、かつての歌声喫茶で定番の歌もありました。
元総理の中曽根康弘氏の愛唱歌である、と知ったときは、ちょっと苦笑しました。そういえば中曽根さんもたくさん句を作っていますね。呆然とするような句が多かったような気がしますが。
また、横道にそれました。戻します。「百舌鳥」は「鵙」とも表記する。蛙やトカゲなどを木の小枝やとがったものの先に刺しておく「百舌鳥の贄(もずのにえ)も、もちろん秋の季語。
「鶇(つぐみ)」、「鶸(ひわ)」、「鵯(ひよ・ひよどり)」、「懸巣・樫鳥(かけす)」、「鶲(ひたき)」、「鶺鴒・石叩き(せきれい)」、「椋鳥(むくどり)」、「啄木鳥(きつつき・けら)」、「鴫(しぎ)」、「四十雀(しじゅうから)」、「頬白(ほおじろ)」、「眼白(めじろ)」、「雁(かり・がん)」もすべて秋。鳥の名を漢字で覚えるのも脳の体操にいいかも。
ただの「小鳥」も秋の季語。もうひとつ「色鳥(いろどり)」。それこそ、秋に渡ってくる色とりどりの美しい小鳥の総称。
渡り鳥そのものは春でも夏でもいるが、このころの渡り鳥はふつう群で飛ばないが、秋になってやってくる鳥は群をなし、その泣き声とともによく目立つ。ただ「渡り鳥」といえば、秋の季語。これに対し「鳥帰る」となると、こちらは春。
では魚の類を見てみよう。こちらも、物知り漢字テストめく。ま、寿司屋の湯吞みによくありますが。「沙魚(はぜ)」、「鰍(かじか)」、「鰡(ぼら)」、「鱸(すずき)」。「鰯(いわし)」、「秋刀魚(さんま)」、「鮭(さけ)」などは、よく知られる表記。
以上すべて、そのままで秋の季語。鯖の場合は「秋鯖(あきさば)」で秋。
秋は植物の世界も人の目や心を楽しませてくれる。印象深い香りもある。
その代表、「木犀(もくせい)」、「桂の花(かつらのはな)」ともいう。金木犀、銀木犀の二種がある。「木槿(むくげ)」、「芙蓉(ふよう)」も秋。
「桃」、「梨」、「柿」、「林檎」、「葡萄」、「栗」、「石榴(ざくろ)」、「無花果(いちじく)」、「胡桃(くるみ)」、「柚子(ゆず)」、「橙(だいだい)」、「檸檬(れもん)」、「花梨・榠樝(かりん)」などのおなじみの果実はもちろん秋。
植物名の下に「実」とつけば、これも秋の季語が多い。「木の実」はもちろん、「椿の実」、「南天の実」、「蘇枋(すほう)の実」、「藤の実」、「杉の実」、「橡(とちの実)」、「櫨(はぜ)の実」、「樫(かし)の実」、「椋(むく)の実」、「一位(いちい)の実」、「檀(まゆみ)の実」、「楝(あふち)の実」「柾(まさき)の実」、「椎の実」「榧(かや)の実」、「榎(えのき)の実」、「枸杞(くこ)の実」、「山椒の実」「茨の実」、「竹の実」など。
そういえば梨のことを「ありのみ」などといいますね。「なし」は「無し」に通じるので、反対の「あり」に言い換えてる。
葦(あし)は「悪し」だから、反対の「よし」にする。「すり鉢」の「する」は、賭け事などの「する」を連想し不吉なので、「する」の逆の「あたり」で「当たり鉢」。「するめ」も「あたりめ」というのもご存知のとおり──。
などと、またもや横道にそれる。
秋といえば、やはり「紅葉」。紅葉関連では「黄葉」「黄落」「照葉」もある。
それぞれの植物の紅葉、たとえば「柿紅葉(かきもみじ)」、「葡萄紅葉」、「漆(うるし)紅葉」、「櫨(はぜ)紅葉」、「銀杏黄葉(いちょうもみじ)」、「桜紅葉」、「白膠木(ぬるで)紅葉」、「蔦紅葉」など。
では例によって、知らないと、つい間違えかねない季語。前にすでにふれたことがあると思いますが「竹の春」。竹は他の植物とは逆に春から夏にかけて葉が黄変し、落葉。秋には若竹が伸び、親竹も青々と葉を繁らす。
だから「竹の秋」といえば春。ただ「若竹」といえば夏の季語。
もうひとつ、「草の花」。これだって知らなければ秋の季語と断定しにくい。「千草の花」ともいい、(たしか)スコットランド民謡に「庭の千草」という歌がありました。この歌詞の流れは晩夏から秋に至る季節が唄われていました。
「草の花」が秋の季語となっているのは、この季節、野に名も知れぬような草々の花が、冬を迎える前のひととき、美しくひっそりと咲き乱れるからでしょう。では例句を掲げましょう。
草の花ひたすら咲いてみにけり 久保田万太郎
名は知らず草毎の花あわれなり 杉 風
草いろいろおのおの花の手柄かな 芭 蕉
やすらかやどの花となく草の花 森 澄雄
草の花旅に糸針買ふことも 伊東余志子
旅に逢い別れしその後草の花 星野立子