季語道楽 ② 「新年」のうち「今朝の春」「初昔」「二日」など 坂崎重盛
新年——年の始め、正月。陰暦では立春が一年の始めとされたので、陽暦になった今日でも年賀状にはご存知のように「迎春」「賀春」などと書かれます。
だから「今朝の春」は、もちろん新年の季語。これはまだわかるにしても「花の春」となると、知らない人はまず、「花がまっ盛りに咲いている春たけなわのころ」と信じて疑わないでしょう。しかし、これも新年の季語なのです。
似た言葉で「花の内」という季語もあります。こちらも新年。宇多喜代子『古季語と遊ぶ』(角川選書)には、
花の内陸奥より人の来るという 辻田克巳
という句が掲げられ、「花の内」とは「小正月から月末までをいう東北地方に残る言葉」とあります。ちなみに「小正月」とは陰暦の一月十五日(前後三日間)のこと。
日本の季節の移り変わり具合からすると、年中行事などは太陽暦より古来からの陰暦の方がぴったり合っているような気もしますが、まっ、仕方がない。太陽暦、陰暦の2重生活を送るのもまた一興。
そうそう陰暦と言えば、日本の伝統文化にくわしいノンフィクション作家・千葉望さんに『陰暦くらし』(ランダムハウス講談社刊)という陰暦礼賛の好著があります。
私たちの句会では、時節に関してはわりとルーズ。ともかくその季節の実感が表現されていれば、ということになっています。ただ季語の誤解だけはできるだけ避けたい。
さて新年の季語をもう少し。
「初昔」(はつむかし)。これは、元日になって振り返った、過ぎ去ったばかりの時間を表わす。きれいな言葉ですね。
わが影に初昔とは懐かしき 原コウ子
ただの、「二日」「三日」「七日」となれば、これも新年。
沖かけて波一つなき二日かな 久保田万太郎
夜咄に三日の酒のはてしなし 石田波郷
渡舟場に五日の客が二三人 吉野秋堂
七日や煤によごれし軒雀 志摩芳次郎
なお七日(なぬか)は「人日」(じんじつ)、「七日正月」ともいい、春の七種粥(ななくさがゆ)を食べる。向島百花園では年の暮れに春の七草の予約受付けをする。これはもったいなくて粥の具にはできません。
そうそう、向島百花園といえば、昔をしのぶ木版画による七福神が乗り合わせる宝船が百花園の茶屋で売られています。お正月、この宝船の絵を枕の下に敷いていい初夢を見ようと願うものです。
こんな時代ですから、せめて宝船の力を借りてでもいい夢が見たいですね。
宝船こころすなおに敷いてねる 横山蜃楼
ふと醒めて宝舟ある又眠る 岸本静歩
願ふことただよき眠り宝舟 富安風生