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“11月29日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

1947年  国連総会でイギリスの委任統治領だったパレスチナの分割決議が可決された。

当時、パレスチナにおけるユダヤ人の人口は3分の一に過ぎなかった。ところが土地の56.5%をユダヤ国家に43.5%をアラブ国家に分割しエルサレムを国際管理するという案だったからアラブ諸国は猛反対した。しかしイギリスは棄権したもののアメリカ、ソ連、フランス、ブラジルが賛成に回り、賛成33、反対13、棄権10で可決された。

背景には国内の選挙戦でユダヤ人票の獲得を狙ったアメリカ大統領トルーマンの強烈な圧力と多数派工作があったとされる。<独断専行で異議を認めない>という大統領だけにそうとも思えるが、もちろんそれですんなり進んだわけではない。すぐにイスラエル独立戦争ともいわれる第一次中東戦争が起こり、双方に多くの死者を出した末にようやく翌年、イスラエルが国家として独立した。そして<戦争と緊張>はいまも変わらず続いている。

*1890=明治23年  山縣有朋内閣の第一回帝国議会が国民注視の中で開かれた。

ラッパの声ようやく近くして声また止むと同時に陸海軍の楽隊一整に洋々として君が代の曲を奏す。陛下の着御。11時15分、南の入口より玉歩しずかに玉座に就かせ給う。同時に一同最敬礼。山縣首相は勅書を捧げて御前に進む。陛下手ずから取りて御奉読あり。はるかに砲声を聞く。宮城において百一発の祝砲を放つなり。勅書奉読おわるや貴族院議長伊藤博文は御前に進み勅書を拝受して退く。陛下は入御。大式ここに終り場外の奏楽洋々として静粛の中にもおのずから和気をふくむ。時に11時25分。

というのが新聞報道だったが議会の勢力分野は軍備充実を主張する与党が129人、経費節減と減税による民力充実をめざす野党が171人の<ねじれ状態>だった。波乱含みの開幕だったが投票直前に野党の土佐派が大量に裏切り予算案は少しの修正だけで通過した。

怒った中江兆民は議会を「無血虫の陳列場」とののしって辞表をたたきつけた。新聞の風刺漫画はチョンマゲ議員、咳払いばかりのエヘン議員、黙れとどなるダマレ議員、よろしい一点張りのヨロシイ議員、拳銃を振りかざすピストル議員などさまざまとからかった。護身用かもしれないが議場に拳銃なんて持ち込めたのかしら。

*1924=大正13年  東京音楽学校でベートーヴェンの第九交響曲が初めて<公式演奏>された。

「年末といえば<第九>」とわが国では親しまれているが日本における初演には諸説ある。松平健主役の映画『バルトの楽園』(2006年)で話題になったからご記憶の方もあろうが第一次世界大戦中の1918=大正7年6月に徳島県板東町(現・鳴門市)の板東俘虜収容所でドイツ兵捕虜が全曲を演奏した。ただし映画とは違いあくまで収容所内のメンバーだけが楽しんだだけから演奏会ではないともいわれる。もうひとつは翌年12月に福岡県の久留米高等女学校に久留米俘虜収容所のドイツ兵捕虜が一部を出張演奏したというものだ。

東京音楽学校のほうはドイツ人教授グスタフ・クローンの指揮で全曲を演奏した。クローンは元ベルリンフィルのバイオリニストで、春から職員や学生、海軍軍楽隊に猛練習させていた。これが話題になって入場券は1週間前に売り切れたという記録がある。当日は演奏・合唱とも完全におこなわれて大成功だったとされるから<公式初演>としておく。

*1910=明治43年  南極探検をめざす白瀬中尉の「開南丸」が東京・芝浦埠頭を出港した。

白瀬は南極探検の費用補助を帝国議会に請願、衆議院は満場一致で可決したが成功を危ぶんだ政府は3万円の補助金を出さなかった。そのため14万円を想定した渡航費用は全額を国民からの義援金に頼ることになった。大隈重信を会長にして「南極探検後援会」を組織して演説会を開くなどして資金集めに奔走した。

政府の対応は冷淡だったのに対し国民は熱狂的に応援したが費用集めは難航した。船もようやく漁船として使われていた204トンの木造帆船を見つけて中古の蒸気機関を取り付けた。船名は東郷平八郎の命名だったが見送りに来た人たちの本心は「こんな小さい船で大丈夫なのか」というところだったろう。

南極での物資輸送のために連れて行った29頭の犬もほとんどが航海中に死に、オーストラリアのシドニーから2隊員が犬の補充と追加資金のお願いに帰国した。資金がなければ船の燃料の石炭や食料の補充もままならない。事実、シドニーではホテルに泊まるお金がなかったため野宿をして住民から抗議される始末だった。

白瀬中尉の南極での成果とその後の人生は南極に上陸する1月16日に改めて、ということで本日は「苦難の船出まで」の前篇これにて。はたして<苦あれば楽あり>といくのか。乞うご期待!

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