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私の手塚治虫(18) 峯島正行

 史上最大の戦争ショー 

 無性人間の素顔

 

無性人間の見本

無性人間の見本

前回まで、縷々と述べてきた無性人間とは、一体どんな体形をしていて、どんな性格で、その心理的性格的側面は、普通の人間とどう違っているのか、改めて検討しておこう。

一見したところ上図で見るように、人間と変わりはない。しかしすぐれているところも多く持っている。

まず手塚自身の説明を聞こう。 

 

*無性人間とはセックスの無い人間だが,所謂,擬性半陰陽や、性転換した連中のことではない。つまり男でも女でもない。第三の性のことで、適当な漢字がないだけに説明がムツカシイ。

*みればギリシャ風の美少年だが、これ以上ふけないから、年を食えばひどいカマトトになる。この可憐な頭の中には、社会の悪の知識や雑学がギッシリ詰まっているのでありますぞ!

*オッパイはない。女性に化けるときは、胸に空いた穴にビニールの風船を埋め込み、空気でふくらます。

*髪の毛を伸ばし、目に細工して、あとは化粧だけで女のようになる。それが正真正銘の女より女なのである。

*下半身については、詳しい描写を避けるが、要は穴があいているだけ。

*無性人間のもっとも特色とされていることは、大平天国では無性人間に人権がないということだ。その生殺与奪の権利は、太平天国の人間の手にあるということである。

人間は無性人間を殺しても、罪にならない。つまり家畜、奴隷以下の扱いなのである。彼らが世界に広がっていっても、それはついて回るのである。 

 

 

二兆六千億人分の精液

 

この無性人間が太平天国から、すごい勢いで輸出され、世界中に散らばって行った。

太平天国の大臣、大伴黒主はこう嘯いて、天下太平に、威張って見せた。

「太平天国は目下、国威上昇中なんだ。十年前は、二束三文だったこの島へ世界中の大物が続々注文に来るんだ。この商売はやめられんね。年間輸出額二百二十億円、いまや冷凍精液は、二十兆六千億人分、貯蔵されている」

「えっ、俺の精液がそんなに!」

「精子の数なんて縮緬雑魚より多いんだ。もう太平天国は安泰だね」

しかし、大平天国から、無性人間が、最初は軍の要因として輸出された、また労務者として、買われていったのが、買った先が戦争に負けて、軍隊が解散となり、無性人間の兵隊が解放されたり、彼らを雇う会社がつぶれて、労務者が解雇されたりすることは、しばしば起きる。

そういう無性人間が色々な形で、世界中に散らばり、様々な下賤な職業に携わり、生きて行くようになってゆくのも、自然の成り行きと言えよう。

また、国家としては、絶対的な組織と権力持つ太平天国においても、ぼつぼつと、上部組織に、反抗感情を持つ無性人間の青年も現れ始めている。

子どもの時から、同時に寝て同時に寝て、同時に排泄、という保育が施され、全く同様に育った無性人間の中にも、あまり上からの苛斂誅求が厳しいと、人間への反抗感情を持つものが、ぼつぼつと現れてくるのも当然と言えよう。それから発する犯行を見せると、人間は懐中に持っている短銃で、容赦なく、打ち殺す。

そういう中にあっても運よく人間の作った規則ギリギリのところで、助かっているものもいる。標識番号9995452号は若き無性人間だが、当局から危険な存在と目されている一人だ。

それは外国に奴隷として売られるのが嫌で、ひそかに売られる一団から逃げ出し、追っ手

に追われるうちに、天下泰平の総統室に入りこんだ。

ピストルを太平に向けながら

「へん、お前が父親か、子供を十把一絡げらげに売りとばして、何が父親か」

と食って掛かる。大平は「こんな例は初めてだ」と驚く。相手は

「親父さん、俺は自由が欲しいんだ。あんたの国という日本に行きたい」

とまで言い出す。

そこで、大平は、妻のリラの敵を探すように言いつけて、日本に残してきた未来のことを思い出した。その後の未来の行動を知り、仇が見つかったかどうかを知るために、この男を、利用するという感がひらめいた。

大平は、その青年九九九五四五二号を、連れて、山陰に作られた秘密の港に連れて行った。そこには小さな帆船が隠されていた。それは大平自身が大伴らと離反した時、島を抜け出すためのものであった。

「さっきのことは水に流そう。元気でな、これに乗って日本に行け、いいか、これから北に北に進めば、黒潮に乗ることが出来る。黒潮に運ばれてゆけば、いやでも日本近海に到着する。後はお前の腕次第だ」

青年は承知で、自ら帆船に乗る。

「これをやろう」大平はネズミの番いが入った籠を渡した。

「こいつを殖やして、いざという時に食うのだ。いいか。日本に着いたら、未来を探し出し、未来にリラの敵を探し出したら、必ず仇をうつように伝えてくれ。いいな。」

青年は承知して、海に出て行った。

 

 

マダムの真実とは

 

話は、日本の東京に飛ぶ。世界の大都市、東京には何十万という風俗営業が栄えている。その中でバー・パイパニアを知らない奴がいたら、プレイボーイとしては偽物である。それは銀座のシャンゼリゼ通りにある、ちょっとしたビルの地階にある。その風情は、あの有名な「数寄屋橋」を思い出してもらえばいい。

この店の特色は、女形の無性人間が、ホステスとなって、人間のホステスにない無性人間特有のサービスの良さが、客を呼んでいるのであった。とくに中年の男客は、常連になると普通の女性ホステスのサービスなんか馬鹿らしくなる、という評判だった。ここを作り上げたのが、無性人間第一号の未来であった。ここを根城に、仇を探していた。

やっと仇の目星がついて、その男と今夜、秘かにデートをしようという日に、無性人間の風来坊が飄然と現れた。

「未来という人を探している」

「未来は私よ」

すると、成年は太平天国から脱出したことを述べ、今朝東京湾に着いたことを語った。

「総統があなたに力になってもらえって」

「パパのそういう話ならゆっくり聞くから、今日は食べものを取って、ゆっくり休みなさい。何日も食べていないのでしょう。

私は、今まで東京を転々としながら、ママの敵を探ってきたの。パパが何年かかっても仇を打ってくれという相手が、ようやく浮かび上がってきたの。その男はママを殺した下手人のボスなの。今夜はその男とデートの約束をしてあるからこれから出掛けるの。だから待ってなさい。あなたの話はそのあとで聞くわ。」

と未来は言って聞かせ、外出の用意を始めた。

 

「ママ、黒滝さんがお待ちです」

とボーイが呼びに来た。黒滝はかつて太平一家が、木座神や黒主の仲間達から逃げ出した時、殺し屋を雇ってリラを殺すことを、木座神が頼みに行った暗黒街の大ボスであった。黒滝は太って、頬に傷のある、いかにもそれとわかる大男であった。二人は高級車で、一路、箱根の仙石原へ。一風呂浴びてのんびり長椅子に横たわる。

「お前と知り合ってから7年、お前が無生人間とは知りながら、お前の気立ての良さに惚れてこうして長い間、付き合う羽目になった……」

「ねーパパ今日こそあの事教えてよ」

「だが何故そんなこと知りたいんだい、あるやつに女を消してくれと頼まれてな、後をつけさせたがうちの若い者が、女はやつけたが、どういうわけか二人とも首をつっちゃいやがった」

「それをパパに頼んだ人まだは生きている」

「木座神とか言ったな、あいつ南洋の島を買って、天下泰平とかいう人間を連れて移住しちまいやがった。」

「うーん、パパ、寝る前にもうひと風呂入らない、私も一緒に入るから」

その風呂場の中で、未来は黒滝の背中ら思いきり短刀をさしこんだ。返す刃で、自分の胸に短刀をちょいとさした。女形無性人間の胸は、空気が入っているだけだ。シュウッと音がして、空気ぬけて出るだけで、男型に変わってしまう。

彼はそっと宿を男として抜け出してしまえばあとは分らない。現場には黒滝の死骸だけが残り、事件となった。

その報道を耳にする頃、未来は紳士として、新幹線の中いた。被害者と一緒にいたクラブ・バイパニアのマダム山下春子が行方不明と伝えられる。未来はスーツケースと、オッパイ用のビニール玩具を新幹線の窓から捨てて、紳士然として、クラブ・バイパニアに出勤した。するとホステスの一人が、「今警察が来ているの、ママが犯人だといっているわ、いくら男になっていても危険よ」

「きょうからわたしは、ママの兄なのだ、警察などごまかせるよ、安心しな」

早速刑事に会うと「お前が犯人だ。いかに男に化けても、マダムの顔にそっくりだ」

「あははは、そんなことは証拠になりませんよ。大体ね、無性人間というのは、殆ど似た顔をしている、妹に似ているからと言って私が犯人になりませんよ、よく似た女形無性人間は、今は十万人ほどいるわけですよ。それを全部集めて、だれがここのマダムか決めるのは太変でしょう。ゼンブ調べるのに十年はかかろうというものでしょう。その十年にうちには新たにどのくらい無性人間が入ってくるかわからんじゃないですか、それでも捜査なさいますか、私は逃げも隠れもしない。此処にいますから」

「うーん、あんたはわしをからかっているのかね、しかし大変なことだ」

 と、刑事も音を上げる。

「それよりここのマダムが口を滑らしたことがあるんだが、黒滝という男は十四年前、人を殺していて、後一年で時効になるから安心だといっていたと聞いてます。そういう犯人は逃していいのですか、なんでも木座神という男に頼まれてやったとか」

出直してくると刑事は去って行った。それから、未来を頼って小帆船で日本に、太平天国からやっと脱出してきた、九九九五四五二号の青年は、太平天国の総統が、どんどん無性人間をつくり、家畜のように売りまくり、その上、自由を要求すればすぐ死刑にする、ひどい奴だと主張する。天下泰平は独裁者で、我々は自由を獲得すまで戦うと息巻いた。未来はあなたの気持ちはわかるが、パパはそん人ではないと説明しても、どうしても納得しないのであった。いずれわかることとして放っておくことにした。

 

冷凍精液丸焼け

さて、肝心の太平天国でも、時の流れとともに、大事件が進行してゆく。ある日、大伴黒主は、太平と雑談の折、冷凍精液は二十兆六千万人分も貯蔵できて、太平天国は安泰だと威張ってみせたうえ、これで太平の役割は果たされたも等しい、太平が、日本に帰国したいなら、日本へ里帰りしてもいい、と太平にいった。望郷の念に堪えてきた、太平は黒主の話を聞くや、飛び上がって喜んだ。黒主は「君が望むならばだ」という。「俺はこの日を待っていたのだ」早速荷造りに取り掛かろうとした。と、黒主が押しとどめるような手つきをした。

「盛大に引退式をやろう。その前に去勢手術をする」

「去勢?」

「そうだ。君にあちこちで精子をばらまかれてはたまらんからな、二度と精子を作れないようにする!」

この言葉に天下の太平も我慢ならなかった。

「ふざけんな!もうこれ以上俺の体に手を触れさせねーぞ」

「手術を受けないのなら、島から出て貰うわけにはいかんっ」

太平はその小さな体ごと、大きな黒主の体に渾身の力で打ち当たって行った。

「ああ友情もこれまでだ」

黒主の上にのって、噛みついた。

 

ちょうどその時、まさにその時を同じくして、すぐ近くで、どっかーん!と物凄い爆発音がした。そしてゴーッと巨大なものが燃え上がるような音がした。それが大火事になってゆくのが、手に取るようにわかった。

「あれは無性人間製造工場だ」

窓から覗いた黒主が叫んだ。伝令の報告も来た。黒主が、

「総統!精子貯蔵庫が火元らしい、行ってみましょう」といって駆け出した。

「じゃ20兆6千億の精子は、モロにやけちゃったんだ」

この場になっても悪党は悪党である。黒主は

「総統、おめでとう、どうやらあなたは去勢されるどころか、またぞろ冷凍精子をつくるために頑張って頂くことになりますぞ」

この一言が、太平の黒主に対する気持ちを決定的にしたのだった。そうとも知らず黒主は

「故意に誰かが爆発させたんだ、必ず犯人を取らえるぞ」と現場に急いだ。大平も駆けつける。

なにもかも灰になってしまっていた。

「こりゃひでえな、20兆6千億のものわが子の元よ。安らかに昇天せよ、われが妻、リラのフトコロに還れ」と祈った末に、太平が、足を運んだのは酒をのむ場所だった。

 

大伴黒主のところに、木座神昭も飛んで来た。焼け跡を見ながら

「大損害もいいところです。二十兆六千億も性が焼けたことは、少なくとも、あと十年後の太平天国の存続を危なくします、がこの商売にはツキもあれば、はずれもある、そこが呼屋の醍醐味でしてな、アハハハ」

と余裕を見せた。そして「総統にも一度、冷凍精子をつくってもらえばよろしい」と平然として自家用車に乗った。そこから電話で命令を下した。

「今日から総統の食事はA級強性食にきりかえろ、レバーとウナギは超特急輸入品に切り替えろ」

 

 

 

 総統の逃亡

 

黒主はまず犯人を捜すことの方に頭がむいた。近頃は無性人間人の中に反抗分子もいるらしいし、また外からバイヤーの誰かか、それともスパイか、と黒主は様々に考える。つい組織を上げて犯人探しの徹底を命じた。

その結果、一人の可憐な女性役の若い無性人間が挙げられてきた。9904151号という、食堂で働く者だった。

「時限爆弾とは知らず、容器をおいてしまったのです」

黒主もこんな少女のような人間が、爆弾を爆発させるとは思えない。彼女を問い詰めてゆくと、その鞄を危ない場所に置かせたのは、リーチ総統夫人だということ分った。かつての端正なパイパニア医学将校も今や、総統夫人として威張り散らしていた。身体もブクブクと太り、鬼のような権柄づくの女に成りきっていた。

裁判の結果わかったことは、天下泰平が、昔の妻リラに似ているところから、その若い女性型を酒舗に連れてゆき、しばしのあいだ疑似恋愛の時間を取っていたことが分った。それに嫉妬した総統夫人が、9904151号を亡き者にしようとして、時限爆弾を詰めた袋を、どこかに運ぶように命じた。その間に爆弾は破裂して、9904151号は、死ぬという計算だった。

所が、精子倉庫の場所に彼女がその袋を忘れたため、20億の精子が燃えてしまった、という事実が判明した。

9904151号が裁判にかけられることになった。すると無性人間多数が一斉に立ち上がり、「無罪」の旗をかかげ、そのデモ隊が裁判所を取り囲み、抗議デモで、大騒ぎとなった。

総統夫人が証人として呼ばれることになった。総統夫人は自分が9905141号を亡き者にしようとした原因は、大平総統にもある、だから彼も証人台に立たせるべきだと都合のいいことを言った。これで裁判は目茶目茶になった。

裁判長の黒主は、9904151を有罪にすることで、事を決着した。死刑の判決を出した大伴黒主は木座神の抑えるのも聞かず、デモ隊に向けレーザーガンを備えさせた。

おさまらないのは、裁判所を取り囲むデモ隊が、「無罪」「無罪」と一層騒ぎ立てるのだった。死刑の執行を知ると、デモ騒ぎは大きくなった。そこを大伴は一斉射撃して、デモ隊を皆殺しにしてしまった。

一方、太平の方は何とか報復したい。食事のとき、一つの手を使った。彼女に食事のとき常用していた強壮剤を黙って、欲望を抑える強力な鎮静剤に変えて置いた。ベッドに入って意気盛んだった彼女が急に動けなくなった。

「あーたどこへゆくの

「うるせいな、こんな国からは、もうおさらばだ」と逃げ出していった。

大平が行った先は、外国に売られるため、延々と岸壁に並んでる無性人間の行列のなかだった。

彼らは半分は北ヴェトナムに、半分は南ヴェトナムに、売られてゆくのだ。狭い船倉にぎゅう詰めにされて、送られてゆくのである。そういう彼らは何もかも捨ててきた、大平を大歓迎してくれた。

「総統、ぼくらに出来ることは何でも」

「総統なんて水臭いこと言うなよ、だ、父ちゃんと言ってくれ、皆はおれにとっちゃ、みんな息子なんだから」

狭い船室も和気藹々としてきたが、彼らの半分は、北ヴェトナムに、半分は南ヴェトナムに売られるのだ、兄弟が近代兵器で殺しあう運命にあるのだ。それを思い、あかない窓に顔を押しつけて、涙を流す太平だった。

 

 

木座神のとっておきのアイデア

 

その頃太平天国、太平が消えていなくなってから半年、リーチ夫人はノイローゼで寝たきり。大伴黒主は「太平が消えてから上手くゆかんことばかり、太平はベトナムに行ったということ以外にあとは分らん。何とか行き先を突き止めて、引き戻さんと、国の一大事」と嘆けば、木座神も「私の商売も順調にいかん、それも総統がいないために不安がられるからです。」

とは言いながら、木座神は「私にはとっておきの手がありますからな」と悠然としている。

今まで無性人間を売っていたバイも三倍も儲かる方法です。つまり木座神明一世一代のユメですよ。戦争ゴッコですよ。

史上最大の戦争ショウ

ですよ。無性人間の軍隊を二つ、ぶっつけ合して戦争させる、お金を取って、それをお客に見せる」

「なんだって!」

流石の天下を狙う大伴黒主も仰天する。しかし、悪玉の木座神は悠々としている。

「昔陸軍の大演習というのがあった。あれです。つまり無性人間を紅白二つにわけて、戦争ごっこをやらせるのです。勿論、ただの戦争ごっこではない。重火器も戦車も使います。無性人間も何千人かは、死ぬのです」

と、木座神は熱弁をふるうのであった。

「これをお客さんに見せるのです。テレビにも中継し、どっちが勝つかクイズもやるんです」

「いったい、どうやって見せるんだね」

まだ科学者の大伴黒主には見当もつかない。

「大ヘリコプターで空中から見せるとか、安全地帯みたいな物を作ってそこから見せる、または一日に何回か観光バスを出すとか…」

「いくらなんでも危険極まりない、流れ弾にでも当たったらどうするんだ」

「一発大当たり、無性人間の看護婦を差し上げる、また無性人間何人でも殺す権利を差し上げる」

「馬鹿、弾に当たったらおしまいだ」

確かに人間は、戦争を第三者として、見るのは、大好きなことは確かだ。

 

ここで漫画を離れて現代の日本の世相の一端に触れて置く。

最近「戦争という見世物……日清戦争祝勝大会潜入記」なる、単行本を出版(ミネルバ書房)した変わった大学の先生がいる。初めて対外戦争に太勝利をしめて、有頂天になっている日本人を描いて興味を引く。

現実に憲法改正の問題をはじめ、対中国、対朝鮮半島始め、アジアだけでも、権力者と民衆が対立している国がいくつもあり、国際情勢は何やらきな臭い匂いが、漂い始めた昨今、こんな本を出す大学教授の心境は恐ろしいような気がする。それはそれして後で論じよう。

 

ここでまた漫画の世界に戻ろう。漫画の中ではあるが、木座神という男が実行しようとしていることは、その戦争の実際見本を見せようとしているわけだ。日本の万博開催にひっかけて、日本でやりたいと考えている木座神は、ついに総理大臣を口説きに出かけることになる。

その黒主と木座神の密談は人のいない山の散歩道で行われたが、太平天国の支配者の動向を探っている青年が、藪の陰で、彼らの話に聞き耳立てていた。

「この話は絶対に秘密ですよ」

「もちろんさ、無性人間どもに知られたら大サワギになる」と言って二人は分れたが、黒主が官邸の玄関まで下りて来たとき、一人の警護の青年にあう。その履いている長靴が泥に汚れているのを見た黒主は、懐中から電動銃を出して「お前は我々の話を聞いたな」と一言のもとに殺してしまった。

「この頃の無性人間もヘンに目覚めてきたからな」と黒主は言いながら何事もなかったように去る。

 

当時、太平の最初の息子の未来は、母親の敵を探すうちに、次第に権力に近づき、その堕落振りと、無性人間に対する無法な対処の仕方に、憤りを感じ始め、ひそかに同志を集めて、無性人間の人権を確立する運動を起こしている。そのアジトに、黒主に殺された青年の遺書が郵便で送られてきた。おそらく彼が殺された場所の近くに、ポストが偶然存在したのだろう。

アジトに集まった同士の前で、未来はその遺書を読む。

「この遺書によれば、身の毛もよだつような恐ろしいプランが進められているらしい、その名も『史上最大の戦争ショウ』というのだ。それに対するわれわれの対策も、立てておく必要がある」(続く)

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