季語道楽(24)ー変わり種・歳時記 坂崎重盛
<strong>変わり種、歳時記︱︱海外編その他、“特化歳時記”を覗いてみる(その1)
季語集、歳時記の中には、おや、こんなものも! という異種もある。例えば、
『沖縄俳句歳時記』、『ハワイ歳時記』また歳時記と題されていないが、外来語を使った俳句だけを収録した『俳句外来語辞典』、さらには前年号の“平成”の句だけに限った『平成新俳句歳時記』。あるいは著名俳人の出身地や住んだ地域、また研究テーマから生まれた“特化歳時記”の類。たとえば、東京下町関連では石田波郷『江東歳時記』、安住敦『東京歳時記』、また、江戸の文人好みとなると、加藤郁乎『むらさき控︱︱新編江戸歳時記』などなど。
これら、一般の俳句(あるいは俳諧)歳時記とは異なる歳時記を覗いてみよう。
まず、なんていっても驚いたのが『ハワイ歳時記』である。函から本体を取り出すと、緑色のクロースの地に原色で『ハワイ歳時記』と題字が刷られ、欧文で「Hwaii poem calendar」の文字があり、 calendarの部分には花束のレイが掛けられている。いかにも南洋風の、可愛いデザイン。
それにしても“常夏(とこなつ)の島・ハワイ”じゃないですか。歳時記と言ったら、ふつうは春夏秋冬(そして新年)でしょう。われわれ日本で暮らしている人間からしたら、(ハワイに四季があるのかしら?)また、(ハワイに歳時記が必要なのかしら? 歳時記が成り立つのかしら?)と思ってしまう。
このことは、日本国内でも北海道に歳時記の季語と季節は一致するのかしらと思われるが、これについては別項で記す。
『ハワイ歳時記』に戻ると、この不思議な歳時記はもう数年前になるだろうか、この文源庫・遊歩人ブログでぼくが「季語道楽」をスタートした直後、同じブログ内で「新・気まぐれ読書日記」を連載していらっしゃる石山文也こと阿部年雄氏から贈られた一冊である。
阿部年雄氏とは、当サイトを主宰する文源庫の石井紀男氏の紹介でお会いし、京都で酒席を共にしたりする間柄。ぼくはこの人を、好奇心旺盛な一種の奇人としてみている。奇人は、とかく珍本と出会う。阿部氏は京都のどこかの古書店か下賀茂神社境内での納涼古書市あたりの、しかも勻一台で、この『ハワイ歳時記』などという本を見つけ、必要もないのに珍しさにひかれ、つい出来心で入手してしまったのではないでしょうか。
閑話休題。この本の概要を。まず、奥付を見る。一九七〇年九月 博文堂刊。三十九年前の本。版元の博文堂の住所は日本ではなく、ハワイ州ホノルル市内「ゆく春発行所」。編者・元山三代松。総ページは四百三十二。定価は明記されていない。ということは一種の「私家本」か。
本文巻頭にあたる部分。題して「ハワイの俳句」。筆者は「ゆく春発行所 平川巴竹」。文章はこう始まる。
昨夏ハワイ訪問旅行した折、ホノルルの元山玉萩さんから「ハ
ワイ歳時記」の草稿を渡された。(中略)一読『よくもまあこん
なに詳細に、こんなに完璧にあらゆる事象を集められたもの』
と玉萩さんの本書に示された熱意と努力に只々頭の下がる思い
であった。
文中、元山玉萩とあるのは、編者、元山三代松氏の俳号だろう。この元山氏のプロフィールに関しては「序」の大原性美の文で紹介されるが、それは後でふれるとして平川巴竹の文をもう少し紹介したい。
ハワイにおける歳時記の存在理由や、ノーベル賞受賞後、川端康成のハワイ大学での講演で「夜の虹」や「冬緑」というハワイ特有の季語について語ったことが記されている。
(ハワイに歳時記?)と思う、こちらの認識が貧しかっただけで、俳句に親しむ感性は、日本国内はもとより、海外の地にあっても生き生きと生き続けていたのだ。
玉萩氏の文をもう少し読み進めていきたい。
(この項つづく)