子どものころは、おとなのころのまま
小川あん
ママがわたしをぎゅっと抱きしめた。
パパがわたしのほっぺにちゅってした。
お姉ちゃんがわたしの手を包むようににぎった。
たくさんの、小さな、可愛い、幸せな記憶。
[赤ちゃんの、杏ちゃん]
車の中でたくさん、おえおえしてた。
「ままー、きもちわるい……」
お気に入りのタオルがずっとそばにないとダメだった。あるとき、空港で忘れたことに気づいたママは急いでタオルを お家に取りに戻った。
「まま、ばーがいない1(わめいて)」
遊園地でいなくなった。ぱぱが、小さな乗り物まちの長い列、1番前にわたしがいるのを見つけた。 「あんちゃん!そんなところに!割り込みしちゃダメよ!」
[幼稚園の杏ちゃん]
ママと離れるのが嫌で、入り口でたくさん泣いた。
「ママと離れたくないー。」
運動会、トラック一周を一生懸命走って、毎年同じところで転んだ。
「痛いぃ、(泣きながら)」
同じクラスの男の子5人くらいに告白されて、全員に結婚しようってお返事した。
「いいよ!みんなと結婚する!」
ぱぱとお姉ちゃんと寝る前にお祈りをした。 「なむなむなむなむ」
おばあちゃまとお姉ちゃんと、パパとママが仕事から帰ってくるのを深夜までずっと起きて待ってた。 自転車の音が聞こえると、窓から手を振った。
「おかえり!」
「小学生のわたし」
泥だらけになりながら放課後男の子たちに紛れてサッカーした。
「男っぽく、強くなりたかった。」
「先生に反抗して、校長室に呼ばれた。
「偉い人なんてへっちゃらって思ってた。」
お姉ちゃんが友達と喧嘩をして泣いた。わたしが言ってくる!って言って、わたしも泣いて帰ってきた。
「お姉ちゃんをいじめないでほしかった」
玉川学園に住んでるちかこおばさまに会いに行った。とても急な坂の上にある、とても広い素敵なお家。そこでよく、 青木のおじさんと喧嘩をした。そしたら、ボーダーコリーのハナが私のところへ来て、なぐさめてくれた。
「ハナはすっごく優しい犬だった」
断片的な、覚えている記憶は 今のわたしの姿と何も変わってなかった。
きっと、これがわたしの大切にしている感情。
そして、このたくさんの感情がおとなの私を引きずってる。
「子どものころは、おとなのころのまま。」
ママがわたしをぎゅっと抱きしめた。
パパがわたしのほっぺにちゅってした。
お姉ちゃんがわたしの手を包むようににぎった。
たくさんの、小さな、可愛い、幸せな記憶。
[赤ちゃんの、杏ちゃん]
車の中でたくさん、おえおえしてた。
「ままー、きもちわるい……」
お気に入りのタオルがずっとそばにないとダメだった。あるとき、空港で忘れたことに気づいたママは急いでタオルを お家に取りに戻った。
「まま、ばーがいない1(わめいて)」
遊園地でいなくなった。ぱぱが、小さな乗り物まちの長い列、1番前にわたしがいるのを見つけた。 「あんちゃん!そんなところに!割り込みしちゃダメよ!」
[幼稚園の杏ちゃん]
ママと離れるのが嫌で、入り口でたくさん泣いた。
「ママと離れたくないー。」
運動会、トラック一周を一生懸命走って、毎年同じところで転んだ。
「痛いぃ、(泣きながら)」
同じクラスの男の子5人くらいに告白されて、全員に結婚しようってお返事した。
「いいよ!みんなと結婚する!」
ぱぱとお姉ちゃんと寝る前にお祈りをした。 「なむなむなむなむ」
おばあちゃまとお姉ちゃんと、パパとママが仕事から帰ってくるのを深夜までずっと起きて待ってた。 自転車の音が聞こえると、窓から手を振った。
「おかえり!」
「小学生のわたし」
泥だらけになりながら放課後男の子たちに紛れてサッカーした。
「男っぽく、強くなりたかった。」
「先生に反抗して、校長室に呼ばれた。
「偉い人なんてへっちゃらって思ってた。」
お姉ちゃんが友達と喧嘩をして泣いた。わたしが言ってくる!って言って、わたしも泣いて帰ってきた。
「お姉ちゃんをいじめないでほしかった」
玉川学園に住んでるちかこおばさまに会いに行った。とても急な坂の上にある、とても広い素敵なお家。そこでよく、 青木のおじさんと喧嘩をした。そしたら、ボーダーコリーのハナが私のところへ来て、なぐさめてくれた。
「ハナはすっごく優しい犬だった」
断片的な、覚えている記憶は 今のわたしの姿と何も変わってなかった。
きっと、これがわたしの大切にしている感情。
そして、このたくさんの感情がおとなの私を引きずってる。
「子どものころは、おとなのころのまま。」
小川あん プロフィール
1998年生まれ。東京都出身。2014年に『パズル』(内藤瑛亮監督)で映画初出演。以降、『天国はまだ遠い』(滝口 介監督)、『あいが、そいで、こい』(柴田啓佑監督)、『スウィートピーターキャンディ』(中村裕太監督)、などに出演。2023年は『PLASTIC』(宮崎大祐監督)、『4つの出鱈目と幽霊について』(山科圭太監督)、『犬』(中川奈月監督)、ヴェネチア国際映画祭出品『彼方のうた』(杉田協士監督)、ベルリン国際映画祭出品『石がある』(太田達成監督)と主演作が立て続けに公開。『DVD&動画配信データ』、月刊「キネマ旬報」にて連載。「週刊文春CINEMA」への寄稿など、執筆活動も行なっている。
おとなはみんな子どもだった